|
エリシャ・クーパー
徳間書店
(2013-06-08)
|
いや、いや、いや……いいです!
幸せとは何かを考えさせられる絵本。
何度見直しても満たされます。
絵の構成が素晴らしいので、絵を眺めているだけで内容が分かります。
タイトルが書かれている扉には、空が描かれているのですが、画面の下に「うみべのいえ」の屋根と屋根と同じ高さの周囲の木々、それに上ったばかりの太陽も描かれています。
次の見開きは、奥付と2度目のタイトルが書かれています。
絵はどうなったかというと……動画を撮っているとするならば……
扉の絵を撮っていたカメラをパン・ダウン(下に向ける)させて、「うみべのいえ」全体と海も取り込んだ広い絵になっています。
太陽は、少しだけ高い位置に描かれていて時間の経過が分かります。
よく見ると、「うみべのいえ」の前面には屋根つきのデッキがあり、そこにはすでに犬のホーマーが小さく小さく描かれています。
次の見開きから本文が始まるのですが、ここからカメラはホーマーの真横に固定されます。
多少寄ったり引いたりするのですが、カメラが動くことはありません。
その多少の寄り引きは、4人の家族一人一人と他のペットの犬3匹が、家から出ていく度に行われます。
……このような場合、「見た目」と言われる、ホーマーの視線でとらえた絵を出したくなります。
「見た目」の絵があれば、読者はホーマーの気持ちに同化しやすくなるからです。
けれども、いっさい出てきません。
作者は、ホーマーを見てもらいたいのです。
読者をホーマーの側に座らせて、ホーマーが何を思っているのかを、じっくりと考えてもらいたいのだと思います……
全員が「うみべのいえ」から出ていった後の見開きは、突然、広い絵に変わります。
「うみべのいえ」と海を含む風景の中には、デッキの上のホーマーはもちろんのこと、出ていったばかりの4人の家族と3匹のペットがすべて描き込まれています。
次の見開きで、カメラは元に戻り、ホーマーの真横に固定されます。
今度は、家族と3匹のペットがつぎつぎに戻ってくるのです。
その後家族は、夕暮れになるまでのひと時をホーマーのいるデッキで過ごした後、家の中に入っていきます。
その時、父親がホーマーに声をかけます。
「ホーマー、なにか いるものは ないかい?」
ホーマーが答えます。
「だいじょうぶ、ほしいものは ぜんぶ あるもの。」
この言葉の後、もう一つのホーマーの言葉を残して文章はなくなります。
次の見開きは、左右3段ずつのコマ割りになっています。
左のコマ割りは、ホーマーが立ち上がり家の中に入って行くところです。
ホーマーが立ち上がった時に、半分だけ水平線に沈んでいた太陽は、ホーマーの体が家の中に半分だけ入った時に、完全に水平線に吸い込まれます。
ホーマーが、どれだけのんびりと動いているのかが分かります。
次の見開きで、家の中の広い絵がポンと表れます。
そこには、ホーマーも含めて家族とペットが全員描かれています。
次の見開きの左ページには、寝床である青いソファの中にうずくまるホーマーが描かれています。
右ページには……
大切な大切なホーマーの最後の言葉だけが、白地の中に書かれています。
ふつうならば、ここで終わりです。
けれどもページをめくると、左側にもう一枚の絵が描かれているのです。
やられました!
この絵があることによって、さらに感動が深まるのです……
……何度も眺めていると、全体の絵の構成が上記のようになった理由が、そして一枚一枚の絵の意味が、しみじみと分かってくると思います。
ぜひとも、ゆったりとした気持ちで、お酒やお茶を飲みながら、この絵本を味わってほしいと思います。